毎日新聞(H13.06.04)掲載記事より
子どもへの視点欠く保育行政
日本の社会はただちに家庭が成り立つ働き方を求めよ。
保育園は市場競争主義の導入により「利用しやすい保育所・選ばれる保育所」として「利用者本位のサービスの提供」を求められている。更には民間営利企業との競争も仕組まれた。この5月に東京都の認証保育所の説明会が開催されたが、希望者が殺到し説明会を追加したそうである。生き残りと規制緩和に保育園も浮き足立っていると聞くが、厳しい競争の中でビジネスチャンスをねらう企業の思惑もすごい。
「利用者本位」とあるが、利用者とは誰だろうか。保育園には「預ける側の親」と「預けられる側の子ども」がある。行政の施策を見る限り、預ける側の都合を最優先させるものばかりだ。延長保育、24時間保育、病後児保育、日曜祭日保育、一時預かり、年末年始保育など保育園の役割増大が何をもたらすか。重ねて、子育て相談、虐待児への対応なども加わった。昨年、読売新聞に「保母さん息切れ症候群」と報道されたが、さもありなんと思った。保育園の開園時間は11時間になった。更に2時間の延長保育を全ての保育園に求めている。2時間以上とあるので、夜9時や10時まで預けられる子どももでてくる。幼稚園でも夜9時まで預かるところが出現したと聞いたが驚いた。
ちょっと考えて欲しい。子どもたちを13時間も保育園に預けておいたら、家庭での生活はどうなってしまうのだろうか。子どもには10時間位の睡眠は必要である。すると親子が関われる時間は1時間しか残らない。保育時間が15時間だったらどうなるのだろう。これが「児童の最善の利益」を標榜する国や都の方針なのだろうか。子育ては「量より質」を唱えたところで、最低の時間が確保されないのでは、何をか言わんやである。そんな訳で保育園には問題が急増している。
北九州市光沢寺保育園主任保育士・藤岡佐規子氏は訴える。 『生活の利便性のみが追求される消費社会の中で、人を育てるという営みまでが、利便を提供するという方向に傾斜し、子どもから遠ざかる親、その影響からか愛の充足感も自分への信頼感も持つことができず、さまざまな症状をみせる子どもたちを前に、私たちは子育て放棄に加担しているのではないかと悩んでいます。』(時事通信'98.8.26)
良識のある保育者は「子どもへの視点が欠けている施策」に親と子の狭間で苦悩しているのである。 デンマーク・ドイツ・オランダなどヨーロッパを代表する国々は深刻な子ども問題や出生率の低下に、それまでの働き方を見直してきた。家族が成り立つような働き方を求めたのである。午後4時には男女とも職場を離れる。子どもが病気になったら職場を休める。5時には保育園に子どもたちの姿は見えない。人々の幸せを考える国々は既に実行している。これが日本で実現したら、仕事と子育ての狭間で悩む親たちはどれくらい救われるだろうか。
日本の企業や行政は市場主義が全ての問題を解決してくれると盲信しているようだ。一つの方針が決定されると、反論しにくくなる民族性である。加えて保育園は行政コントロールが厳しく、決められた方針に従うことを強く要求される。それでいて、現場の声をフィードバックする機構が欠落している。現場の持つ問題の本質を捉えて、はじめて真の解決は見いだせる。その機構が無いのである。
このままでは、子どもへの視点を欠いた現施策が日本の社会を形作っていってしまう。保育・教育行政担当者、保育園・幼稚園団体長の責任は極めて重い。 さて、東京では排ガス問題が急展開を見せている。ディーゼル問題を放置すれば「東京の空はは真っ黒」になる。福祉局の施策を放置すれば「子どもたちの心が真っ暗」になる。石原都知事は東京都福祉局の方針を是非見直してみて欲しい。はっきり言って「心の東京革命」はお膝元に根本的な矛盾を抱えている。


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