親と保育所の望ましい連携(真の保育所の仕事)
親が親として育つための保育所の在り方
長田安司
はじめに
保育所にはいろいろな役割が求められているが、全国の保育園が次の述べるような意識に基づき、具体的な保育を展開していくことができれば、健全な社会を作り上げるのに貢献できるのではないかと考える。以下に共励保育園で実践している親と保育所との連携の重要なポイントを列挙した。ご参考くだされば幸いである。
(1)保育所の役割
保育所は子育てに関する第一義的責任を持つ家庭に対し、その役割を果たせるようさまざまな支援を行う。そうした中には保護者の就労に対する支援や、地域で得難くなった子育て支援力、教育力を含めて、子供たちの健全な心身の発達を促すべく支援が含まれる。
(2)親子の絆を強め、親が親として育つ具体的な方法
保育所が行う支援は親の代替えをすることではない。保育所の支援は子供たちが心身共に健全に育つことを第一義に、子供の成長を通し、親が子供の成長を喜び、子供たちが親と過ごすことを楽しみ、夫婦の関係が良くなり、家庭が明るくなるような支援でなくてはならない。
1)子育て広場
育児休業は満3歳まで休業補償付きで完全実施となることが望ましい。最低でも満2歳までは確保したい。0・1・2歳の子供たちにとっては母親の存在は不可欠である。生物学的に見ても母親は子育てにおいて優位性を持つことは明白である。
マーガレット・マーラーは乳幼児期の心の発達研究において、この時期の子供たちの心の葛藤に対し、親や周囲の者が上手に対応することの重要さを伝えている。対応次第では、その子の人格構造の土台が良くも悪くもなることを明らかにしている。
乳幼児期の心の発達の特性を考えると、極端な母子分離は避けるべきであるという結論が導き出せる。子供の心が不安で覆われ、それが「消すことのできない刻印」(2001世界子供白書)となるような事態は起こしてはならない。
「子育て広場」では親子同伴が原則となり、子供はいつも母親の存在を確認しながら他の子供たちや大人と関わり、徐々に世界を広げ母親から自立していくことができる。
「子育て広場」は全ての保育園に併設することが必要である。そこでは保育士や同じ年頃の子供たちと遊んだり、栄養士、看護師の助言を受けることができる。親子の絆を深める「赤ちゃんマッサージ」などの指導も受けることができる。やがて、子供たちは2歳か3歳になると、そこでの経験を踏まえ、安全感と安心感を保ちながら徐々に母親と離れ、保育園の生活へと世界を広げることができる。
2)親が子供の成長の場に立ち会うことができるような配慮を
事情で育児休業を取れず0歳からの保育所保育を受けるケースもある。そうした場合は保育所での生活や活動を通し、子供が成長していく素晴らしさを両親に伝える必要がある。
親であれば、子供が始めて歩行を開始した場面に立ち会えたときの感激は一生忘れられないものである。「もうすぐ歩きそうですよ!」とさりげなく親に伝え、親自身がその場面に遭遇するようにし向けたい。
0歳から就学前までの子供の成長の随所にこのような場面はでてくる。親になった喜びを親自身が味わうことが大切である。
3)子供の発達の見通しを親に伝える
初めて経験する子育ては予期せぬ出来事でいっぱいになる。親は、自分が育てられたように自分の子を育てる傾向が強いことが報告されている。そうした子育てを親自身が客観的に見直せるよう、子供の成長の大筋を伝えたい。こうした知識は親の子育てに対する不安を和らげたり、親の不用意な対応によって起こる問題に気づいてもらうのにも役立つ。入園時の問診や個人面談においてこうした情報を伝えることは特に大切である。
4)親の参加を引き込む
保育が始まると、親は預けることばかりに意識が向く。そうした中、実際に保育に参加してもらうことや、その後の懇談会、親子遠足などの機会を通して、いろいろな家庭の、いろいろな親子の関わり方があることを知らせる必要がある。中には子育て経験豊富な親もいるので、悩んでいる問題の解決策を簡単にもらえることもある。
積極的に子育てに関わろうとする父親もいるので、そうした父親の話題を取り上げ、他の父親の意識の変革を促したい。こうすることによって母親に対する応援態勢を充実させることができる。三歳児神話などと騒ぐより、こうした実質的な行動が要である。
とにかく、いろいろな人のいろいろな子育てを知ることである。保育所は子育てや家庭生活の在り方など、お互いの知識の交換ができる場を提供できる。親の仕事ばかりが中心になると預けることだけが焦点となり、保育所での潤いのある関わりが少なくなる。それではもったいない。
5)行事
日本の伝統行事には子供の成長を祝ったり、成長の節々において人間としての心構えや生き方を教育する意味を持つものが多い。保育所におけるさまざまな行事もこうした意味づけをすることができる。また、行事を通して市民社会のルールを子供ばかりでなく大人にも伝えることができる。
(遠足)
遠足は親子の関わりを深めたり親同士が知り合い友達づくりの絶好の機会となる。こうした遠足は、オリエンテーリングなどでグループ行動を意図的に仕組んだり、クイズやゲームなどでアクセントをつける。時にはドッヂボールや縄跳びなどを入れ親主体の活動を入れることも効果がある。親も親なりに楽しむ場の提供はその後の保育所の活動に対する関心を深めることができるからだ。
5歳ともなると足は大人並になる。ちょっとした山なら何ら問題はない。こうした遠足には父親の参加を促す。新緑の山道を父親と話しながら登る。時には息の切れそうな斜面もあるが、父親の厳しさに支えられた愛ある応援で登り切る。お弁当の後、父親と斜面で転がって遊ぶ。こうした関わりが親や大人に対する原信頼のようなものを伝える。
3・4歳の秋の遠足に父親のお手伝いをお願いする。子供との関わり方の上手な他の父親の遊び方を見て、重い腰を上げる父親もいる。ほどなく子供が群がり、もみくちゃにされる。大勢の子供にまみれると自然と父親が変化する。男性の子育てに関するためらいを、こうした形で意識変革することができる。
(運動会)
保険を十分かけ、事故に備える。そうした上で大胆な種目を取り入れる。大人の種目を4割、親子の種目を2割、子供の種目を4割とする。こうすることによって、親は親なりに、子供は子供なりに楽しめる運動会となる。
子供たちの徒競走やリレーは否が応でも親の心を揺るがす。けなげな我が子が懸命に走る姿を見て感動しない親はいない。走り方をしっかり保育所で教え、勝つことを目指し努力を重ねる。4歳・5歳児には頑張ること、続けること、我慢することを教える。
親子で行う騎馬戦も親心がうかがえて楽しい。3人の親が作った騎馬に子供が乗り、敵の帽子を奪い合う。親にはダイナミックな競技を用意する。パラシュートを運んだり、綱を奪い合ったりする。
クラス対抗リレーは会場全体が盛り上がる。1チーム6人。男性2人・女性4人。その中には保育士も入る。まず、お父さんがグランドを一周走る。走ってきたお父さんをお母さんが工事現場の一輪車で半周運ぶ。ビヤ樽転がし、ムーンカート(子供用の足こぎ自動車)と進み、4メートルの高さの丸太棒に登り先端の風船を割る。この丸太棒には太さの違いがあり、早いチームから順に難易度の高い棒を登ることになる。これはお父さんの担当。登れない事態が起こると一気に最下位となってしまう。最後に全員でムカデ競争。みんなで声を合わせて半周してゴールする。ゴールに入るとみんなどっと倒れ込む。疲労困憊である。これで勝つと本当に嬉しいらしい。みんな手を取り合って万歳をする。連帯感が強まる。
お昼のお弁当の時間となる。家族が集まって、この日のためにお母さんが用意したごちそうをパクつく。お爺ちゃんお婆ちゃんも含めて家族が揃う。いろいろな話で湧く。お父さんが子どものがんばりを誉め、子どもはお父さんの偉大さを感じる。みんな嬉しそうである。ここに家庭教育の原点がある。
(保育展・作品展)
2月には保育の一年を展示する。0歳から5歳までの成長の足跡と1年間の活動を展示し、子供たちの発達の全体を見通すことができるようにする。保育所での生活を通して獲得する基本的な生活習慣や活動を通して高められる身体的運動機能などに加えて、ホモ・ファーベル(道具を使う動物)とも言われる人間の特性を生かして手の巧みさを育てていく。
紙を破いたり丸めたりする指先の活動、絵画・造形活動を通し、美的な感覚を養いながら、ハサミ使い、折り紙、模様など手先の技能を高める。これらの技能の向上は子供自身の自信とつながる。成長に従い言葉や数の概念が発達する。子供の発達に応じた教育が必要である。そうした子供たちの成長の足跡を見やすく展示し子供たちの素晴らしさを伝える。
こうした活動を通して両親の信頼を獲得する。教育には信頼が前提である。これには、しっかりしたカリキュラムを組み、実践を踏まえて保育・教育の質を高める。0歳から5歳までの発達を考えれば、この時期の教育の大切さは強調してもし過ぎることはない。
6)保護者面談の重要性
0歳から入園すれば、卒園までに6年間ある。子供が0歳の時、母親も0歳といえる。仕事ばかりが気になっている母親も、子供の成長と共に成長する。子供が示すいろいろな反応も、最初は理解できないが、周囲の子供の様子や他の親との関わり、保育士のさりげない助言などからだんだんと気づいてくる。
1歳半の強烈な自我の芽生えを経て、3歳にははっきりした性格もできあがってくる。5歳にもなれば、他人の心が理解でき、同時に自分自身が見え始める。親との関わりは一段と複雑になる。就学を迎える前なので、子供の行動については親も気がかりが増える。
(面談の実際)
子供の顔から輝きが消えるような現象に気が付いた時には要注意である。親との関わりの薄さを示している。1歳半から2歳には問題行動がでてくる。かみつきや髪の毛を引っ張る、叩く、蹴るなどの行動をこの時期に起こしている場合は家族の状況を知る必要がある。いち早く子供の心の状況を察知し、十分なケアが行われるように助言する。
こうした行動は兄弟からの影響もある。夫婦関係も含めて、両親の育ち方についても面談を通して知る必要がある。最近言葉が悪く、子供への対応も暴力的な親が増えている。暴力的な言動が子供を萎えさせているということに意識が薄くなっている。面談時にそれらの言動の問題性を上手に伝える必要がある。背景を理解してはじめて子供の問題行動への対策や対応が導き出せる。
面談を通して2歳ぐらいまでに子供の心の状態や問題行動の背景を捉えることができると、3歳児になって問題に対する親の認識を高めてもらうことが可能になる。親の対応の変化を獲得することができたら、4歳頃から問題は徐々に薄くなり、5歳頃には消えていくことが期待できる。
保育所は6年間あるので、長い時間をかけて親に大切なことを伝えることができる。親も徐々に成長するということを考えながら対応すると、結果的には長期戦が実りをもたらす。
7)社会的自我の育成
子供たちの発達を踏まえ保育所はカリキュラムを編成する。特に「自分づくり」(健全な自我の育成)については、十分な配慮が必要である。母親との愛情ある関わり(母性)からしっかりした一次自我をつくり、その上で集団生活を通して得られる社会的自我(父性)を育てていく。
5歳頃にはルールに従った方が遊びがよりダイナミックになることを知る。自分だけの思いを先行する自己中心的な段階から周囲の友達との関係を高めることによって大きな喜びを得られることを知っていく。
こうした社会的自我を育成し、子供たちが自分自身を好きになり、自信を持って行動していくことができたら、保育所の役割は果たせたと考えて良い。
おわり.
社会福祉法人同志舎 共励保育園
理事長 長田安司
連絡先:
〒192-0046
東京都八王子市明神町1-9-20
電 話:042-631-4670
ファックス:042-631-4671
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