魔女にとられる!?フルーツ島02

t_pict01.gif平成13年度
劇遊び実践記録
共励第一保育園
年長ばら組
担当/小川香里

t_pict02.gift_pict03.gif共励保育園では、毎年運動会が終わってからの2ヶ月間、一つの事に集中して取り組む活動がある。
ごっこ遊びから劇遊びを作り上げ、それをホールにて発表する劇創作活動である。この記録はバラ組(年長組)の劇遊び活動を文章でまとめたものである。

ばら組というクラスについて

男児10名 女児15名 計25名のクラスである。全体的な雰囲気としては、「自分が!!」というよりも、どちらかと言うと“受身”的な性格の子が多い。しかし、“芯”はしっかりと持っていて、こだわることにはこだわる。(全てが受身という訳ではない。)ひとまとめに表現すると、このような感じのクラスである。

何もないところからのストーリー作り

活動発表会に向け、どのようなことがやりたいのか、クラス全体で話し合う。「どんなことがやりたい?」という保育士の声がけに対し、女の子からは、「まじょ」「うさぎ」「りす」等、男の子からは、「おばけ」「とり」「わに」等と、ただ単に“役”について自分の希望を言ってくる子がほとんどであった。
これではストーリーどころではないので、それらをやるには様々な方法があることを伝える。例えば、魔女をやりたいのなら、それを“人形”でやるのか、“影絵”でやるのか、“人間(自分自身)”でやるのか・・・。すると「あ~っ」と気付き、「人形」「自分でやる!」と2つの意見にまとまる。
全体的には自分で演じる“劇”を希望する子が多く、とりあえず、“劇あそび”をやることに決まる。“人形”を希望した子は自分の思いが強い子でその意見を引こうとはしていない。保育士の頭の中もストーリーは何もなかったので、今後の方向でどうにかして取り入れていくことを約束した。
登場人物については、全体的に希望が多かった「動物」と「魔女」に決まる。動物については、自分のやりたい動物をやることにする。この時点で、女児15名中9名は「魔女」希望。他児は皆、「動物」希望であった。男児で魔女を希望する子はいなかった。
story_02.gifストーリー等全く決まっていないが、魔女希望の子は、すっかりなりきり、「魔法かけちゃうぞぉ! えいっ!」と腕を振り回している。男児も強い動物、「ライオン」「わに」等になり、吠えている姿が見られる。又、人形を使いたいと思っている子はライオン希望で、「牛乳パックで作る!」と、もう構成を考えているようだ。
 自分が何の役をやりたいのか、だいたい決まった所で、お話作りをしていく。こうなると、子どもたちはそれぞれ自分の思うように進めていきたいのが心情である。「魔女」は「どうぶつたちにまほうをかけちゃうの!!」。「動物」は「わにはつよいから、まじょなんかくっちゃうぞーっ!!」「まほうなんかかけらんねーよ!」。この時点から、明らかに対決ムードである。その様子を見て保育士は、この対決は絶対に取り入れよう! と心に決めた。
具体的なストーリーとなると、子どもたちだけではなかなか前に進まない。保育士もしばらく聞き役に徹するが、特定の4、5人が一方的に喋るだけで、全くまとまらない。そこで保育士は、具体的な部分を突っ込んでいった。
「まず、魔女はどんな魔女なの? いい魔女? 悪い魔女?」子どもたちから返ってきた答えは、「いじわるまじょ!」。ライバル? の動物からはそういう答えが返ってくると思ったが、魔女たちからもそういう返答があり、正直驚いた。 
「どこに住んでいるの?」という質問には、「むじんとう!」「しま」という意見が多い。♪無人島♪という歌あぞびを好んで行なっている時期だったため出てきた意見だと思う。動物たちについても、やはり「しま」に住んでいるという。
男児はどうしても魔女と対決したいらしく、「やっつけたいよな!」と言ってくる。
「きれいなところに すみたいっておもってる。」魔女役の子も、「うんうん」と頷きながら聞いている。対決理由がハッキリとしたのでその前後のストーリーはともかく、「魔女」と「動物」の対決だけをメインに繰り返し遊ぶことにする。

(保)「何でやっつけたいの?」
(子)「いじわるだから。」
(保)「どんな意地悪をするの?」
(子)「島をとろうとするから。」
(保)「何で?」
(子)「魔女の住んでいる所は、臭いから。動物が住んでいる所は、きれいだから。」

(保)・・・保育士   (子)・・・子ども

対決の方法はどうするか?その1

どういう対決をしたいか聞いてみる。
ジャンケン・相撲・リレー・落とさず運ぼう(運動会で行なった親子競技のボール運び)なわとび・バランス・ハンカチ落とし・フルーツバスケット・イス取りゲーム・何かを早く取った方が勝ち 等々・・・があがる。
対決後のストーリーはとりあえず置いておいて、毎にち日替わりで「魔女」対「動物」の対決を楽しむ。単純に勝負を楽しめ、しかも、常に真剣勝負。「動物」たちは、確実に勝てる“相撲”を好む。相手は魔女(女の子)。ほとんどが勝てると思いこんでいる。
これで本番の対決方法を相撲に決めたら、明らかに不公平ではないか? また、他の対決方法も舞台上で行なうことを考えると難しかったり、勝負の最後がわかりづらかったりするものが多く、保育士としては他に何かないかと考えた。次の日、紙袋のバスケットゴールと紙コップで作ったけんだまを出してみた。すると、クラス全体的にかなり興味を示した。やってみると上手くいくことの方が少ない。でも何だか出来そう。それが彼らに火をつけたのか! 特にけんだまには夢中になった。

ストーリーの続きを考える

story_08.gif今までに決まっているのは、魔女たちは、きれいな島(フルーツ島)から動物たちを追い出そうと意地悪をする。と、いうこと位である。どうやって追い出そうかを考える。「ちいさくなる くすりを だまして のませちゃえばいいよ!」ということになる。(これで人形が取り入れられると、保育士はホッと一安心。こだわっていた子たちも、「うんそうしよう!!」と大満足という反応。)“小さくなった動物たちはどうするか?”を考える。
「まじょが ねている あいだに もとに もどる くすりを とりいく!」
「ちいさくなってるんだから もてないじゃん!」
「たかいところに おいてあったら ちいさいから とれないよ。」
「・・・・・・。かたぐるまみたいに うえにのる!」
「・・・・・・。」
というような話し合いになり、保育士の「じゃあそうしてみよう!」と言う声でやってみることにする。
まだ人形まで出来ていないが、作ろうと思い込んで、牛乳パックを持って来ていた子がいたため、それらを使い人形に見立てやってみた。保育士の持っていた飴のビンを薬ビンにみたて、本棚の一番上に置いてみた。「動物」の子は人形となる牛乳パックを自分らの手で持ちながら、踏み台(牛乳パック)を重ねていき、そのビンを手に入れた。人形でというより、自分たちで取っているという状態であったが・・・。
すると、ばら組で一番まじめと言っていいであろう、又、クラスの皆に信用のあるリーダー的存在のG君の一言が!!
「それじゃ、どろぼうじゃん!! いけないんだよ!!」
一同「・・・・・・・・」  保育士も「・・・・・・・」
「そうだね・・・。じゃあ、どうしようか?」と保育士が問うと、これまでも自分の意見を次々に言ってきていたY君が、「じゃあ、“なぞのとり”がどうぶつをたすけにくればいいよ。そらからひゅ~って。それで、まじょから くすりもらうの。まじょとしょうぶしてさ!」思わず「それがいい! そうしよう!!」と保育士が言ってしまう。
アイデア豊富のY君の一言で先に進むことが出来た。すると、小さくなった動物たちを助ける「謎の鳥」の出現で、「動物」の中で普通の鳥をやっていた男の子や、他の動物をしていた男の子が、「おれ、なぞのとりがいい!!」と正義の味方へ転身した。
男児10名のうち、8名が転身。「ライオンがやりたい!」と初めから強く希望していた2名のみが「動物」として残る。

薬をもらうための勝負「魔女」vs「謎の鳥」

story_04.gif今までは「魔女」対「動物」だったのが、「魔女」対「謎の鳥」になる。まだ自分たちでやりたい勝負方法で行なっていく。
保育士の中では“ここで鳥が負けて薬を貰えなかったら動物は元に戻れない。どうするんだろう・・・?”と真っ先に考えたが、経験すれば気付くことだろうと思い、そのことについては触れず、勝負をしていく。(保育士もこの時点でそうなった場合のいい案があった訳ではない。)
しかし、保育士の思いとは裏腹に、とても順調に?「謎の鳥」が勝ち続ける。相撲、バスケット、ボール運び、けんだま等、比較的男の子が得意そうなものに限らず、ジャンケン、バランス等の単純な勝負でも、「謎の鳥」が勝つ。しかも、追い込まれていながら奇跡の大逆転! を起こしたりもする。
保育士としては、その方がストーリー的にスムースになり安心感はあるのだが、いつ負けて、次の展開を考えなくてはならない事態になるのかを気付いてくれるのだろうかと、考えていたが、子どもたちに、そのことを伝えるきっかけがつかめず困った。その後もそんな保育士の気持ちは露知らず、「謎の鳥」「動物」たちは勝ち続け大盛り上がりである。
負け続きの「魔女」たちは真剣さのあまり泣き出す子もいる。元に戻る薬を手に入れ、「動物」が元に戻り、最後に「フルーツ島」をめぐっての「魔女」対「動物」の勝負をしても、「動物」が勝つことがほとんどであった。

「謎の鳥」助ける!

「魔女」の負けが続いているため、何で勝負したいのかを「魔女」たちに決めてもらいながら進める。力、技術よりも、運の方が必要な?(魔女にも勝てるチャンスの多いもの)“ジャンケン”を選ぶ。そして、やっと、「魔女」が勝ち、「動物」たちが元に戻れないという経験をすることが出来た。この日魔女たちは大喜び! フルーツ島は魔女たちの物! ということで終了する。
負けることで動物たちが元に戻れない場合があることに気付いたため、皆で細かいストーリーの見直しをする。“そうなった時、どうするか?”「どうぶつの しまなんだから もとにもどれるように なぞのとりが かつまでやる。」「どっちがかっても なかなおりをして みんなで なかよくくらす。」「そのまま まじょの しまになる。」「どうぶつも しょうぶしたい!」というような意見があがる。
保育士としては、クラス全体が勝負することを楽しんでいるため、皆にやって欲しいという思いがあり、又、正直、発表会ということを考えると、3つの役のうち2つの役には楽しんでいる勝負が出来て、1つの役の子たちは、勝負に参加すること無く終わってしまうことがあるというのはどうか・・・とも考えてしまう。
子どもたちにはこの壁にぶつかってくれることを願っていたにもかかわらず、保育士自身も壁にぶつかってしまった。発表会の時間や場面展開の数、遊んでいる子どもたちの様子、等色々考えたが、いい案が浮ばない。保育士の筋の通った思いが無いことが伝わるのか、子どもたちも思いが統一しない。
子どもたちの思いで進めていくストーリーだが、この時点での保育士の正直な思いをクラス全体に話す。
「魔女が勝って動物がもとに戻れないでフルーツ島は魔女のもので終わることになるんだけれど、先生は、ここで動物がもとに戻れないまま終わってしまうのは寂しい気がする。だから、魔女と謎の鳥は真剣に勝負をしてもらって、それで、鳥が負けちゃったら、次の勝負は相撲にして、鳥が勝って、動物が元に戻れるっていうのはどうだろう?」と。
すると案外簡単に壁を越えられた。保育士が思っていた以上に、子どもたちは“劇あそび”として(つまり、現実とは違う劇として)考えることが出来ていたのかもしれない。
(わざとではないが)勝負に負けて薬を渡さなくてはならない「魔女」たちも、「そうか~。それがいいよ。動物に勝てばいいんだもんね!」と納得してくれた。魔女たちに少しの我慢をしてもらうことになったのかもしれないが、全体のことを考え自分の思いを抑えられる年長ならではの姿だと感じた。

対決の方法はどうするか?その2

日替わりで様々な対決をしてきたが、本番は何で勝負したいかを聞いてみる。「謎の鳥」は、けんだまに夢中であるため、「ぜったいけんだま!」と強くアピールしてきた。対する魔女も日々けんだまの練習はしているし、ストーリーの流れも考えてか、けんだまで納得する。また、最後の「動物」対「魔女」の勝負でも、けんだまがやりたいと動物のアピールがあったが、魔女の「なぞのとりとおなじになっちゃうじゃん。」という意見と、保育士の「皆が一緒に出来る勝負がいいかな。」という意見で、これも楽しんでいたイス取りゲームになる。1回目の勝負「謎の鳥」対「魔女」は、“けんだま勝負”。2回目の勝負「動物」対「魔女」は、“イス取りゲーム”に決まる。

勝敗によってストーリがかわる

勝敗については、日々真剣な勝負を行なっているため、どちらが勝つかわからない状態である。どちらが勝ってもいいようにその先を決めておかなければならない。1回目の勝負は、「謎の鳥」が勝てば魔女から薬をもらい「動物」を元に戻してあげることが出来る。「魔女」が勝った場合は、もう1度チャンスを与え、“相撲”での勝負にする。と先日決まった。
2回目の勝負(最後)についてはまだはっきりと決めていない。「動物」対「魔女」で、「動物」が勝ったらどうするか?「魔女」が勝ったらどうするか? これはあっさりと決まった。「かったほうの しまにすればいいじゃん。」「どっちがかっても いいじゃん。」
子どもたちの言う通り、どっちが勝っても負けても何の問題も無いため、いつものように真剣勝負をしてもらう。ただ、この劇は発表会でお客さんに見てもらわなければならないものであるため、それぞれが勝った時(負けた時)を想定しての練習はしておいた。
子どもたちも毎日結末が決まっていないので、日々新鮮に取り組んでいる。とはいっても、魔女が勝つ日はとても少なかったが・・・。
(真剣にやっていても、負け続き。悔しくて泣き、「やっぱり動物がやりたい」という子もいた。)

けん玉

男児はすぐにコツがつかめ、上達が速かった。普通の入れ方だけでなく、手をひっくり返したりする難しい入れ方にも挑戦していた。出来る子は出来ない子に教えてあげたり、また、出来ないのに練習しないでいる子に「練習しろよ。」と練習させたりする姿がみられた。
魔女役の女児も、もちろん練習していた。家庭で同じ物を作り、自主練を積み重ね、日々腕をあげる子もいた。その子に関しては、男児と同じ位の上達振りで、それを見た上手な男児は、更にやる気を出し、朝、昼、夕と時間を見つけては練習していた。
紙コップで作ったけんだまが2つあった。本番間近のある日、謎の鳥役のG君から「発表会の日はこっちのけんだまにしてね。」と指定された。よく聞いてみると、そっちの方が入りやすいそうである。2つのけんだまは、紐の長さ、球の重さが微妙に違うらしい。保育士はそこまで気づいていなかったが、毎日けんだまを触り、体験を積み重ねているからこそ気付くことであった。(希望通りそっちのけんだまを使った。)
けんだま勝負の時、役ごと1人ずつ行なう。
先攻、後攻はジャンケンをし、勝った方がどちらか決められるようにする。繰り返し行なっていくうちに、「謎の鳥」の4名の男児は「後攻がいい」と強くアピールしだす。ジャンケンに勝ち、後攻になるとその時点で勝ったかのようにガッツポーズをするくらいである。何故かと問うと、「だって まじょが なんてんか わかってたほうが いいじゃん。」ということだった。

椅子取りゲーム

遊びを繰り返していくうちに、1つのイスに2人が座ってしまった場合のもめごとが見られるようになる。イス取りゲームに参加している子は自分のことで精一杯なため、人のことは見えていない。見ているのは、保育士と、「謎の鳥」になる。
当日保育士は劇に参加しないことを話すと、「謎の鳥」たちが「おれやる!」とやる気満々。彼らなりに目を凝らし、チェックしている。ほとんどの場合正しく判定してくれるが、ハッキリとわからなかった状況になると、「動物」の味方であるだけに、「動物」を勝たせてしまうこともあった。“不正”になってしまいそうな場合には保育士が声をかけ、皆に聞いてみるとか、2人にジャンケンで決めてもらうとかして欲しいことを伝えた。
また、やっていく中で音に合わせて歩かず、イスの前にいる時間を多くとろうとして、イスの前では細かく足踏みをし、イスとイスの間では駆け足をするという頭脳犯? も見られた。更に、イスの数が減ってくると、イスに触りながら歩いたりもしていた。大抵同じ子である。それを見つけた「謎の鳥」たちからは「ずるい!」と言う声があがる。それから、“イスに触ってはいけない”“音に合わせて歩く”“イスが少なくなった時にはテープで付けた印(円)の中に入らないで歩く”というルールが決められた。
本番が近づくに連れ、もめごとが増える。当日も何かあったら、お父さん、お母さんお客さんたちに聞いて判断するように話しておく。

活動発表会当日

お客さんが見ているという意識をしっかり持っていて、「ドキドキするよぉ。」と緊張している様子がうかがえる。トイレも近い子がいる。また、普段よりテンションが上がり、落ち着きが無くなっている子もいる。保育士としても、どうなるか不安ではあったが、どうにかなるさという気持ちで望んだ。
舞台の幕が開き、いよいよ始まり。初めに登場するのは「謎の鳥」。少し表情は硬いが堂々とやっている。「動物」たちの始めのシーンは♪無人島♪という歌遊び。これも決まり無くその場で本気で遊ぶものである。イス取りゲームのイスが人になったような遊び方のものである。
取組中はスムースであったが、当日は一人の子に二人の子が行ってしまい、二人ともしばらく譲らない。どうするかと見ていると、ジャンケンで解決した。他の勝負でもめていたことの積み重ねが見られ、ホッとした。「魔女」は比較的おとなしめだったのだが、当日熱を出し、本当は辛いであろうSちゃんが、いつも以上に大きな声を出し、他の子を引っ張ってくれた。熱があることを他の魔女も知っていたので、私も頑張らなくちゃ! という思いを抱いてくれたのかとも思う。全体的に皆、はりきり、大きな声を出し、いい姿を見てもらおうという意識がよく見られた。
いよいよ勝負の場面である。最後の勝負に関してはどちらが勝っても心配は無かったのだが、1回目の勝負(けんだま)に関しては、「魔女」が勝つことがほとんど無かったため、保育士としてはかなり不安はあった。しかし逆に、「謎の鳥」たちは、かなり腕をあげ確実に入ることの方が多かったので、大丈夫! という安心感もあった。
するとどうだろう。先攻は魔女だったのだが、いつも入らない子が次々に成功させている。「謎の鳥」の子たちも目を大きくさせて驚いている。もちろん保育士もドキドキで、こんなことを言ってはいけないが、けんだまを振る度に“もう入りませんように!”と心の中で叫んでいる位だった。
魔女は3点。「謎の鳥」はそれ以上取らなければ負けてしまう。いつも確実に入れている子がはずしてしまう。保育士の頭の中は、魔女が勝った場合のストーリーが描かれ、この場所から声をかけていくしかないと思っていた。しかし、今度はいつもなかなか入らないO君が入れ、また他の子も確実に入れることが出来た。
3対5で「謎の鳥」の勝ち! 子どもたち同様、保育士もホッとした瞬間だった。このような点数は今までに無い数だった。(もっと低かった。)多くのお客さん、大好きなお父さんお母さんが見ているということは大きな力になる、また、力に出来るのだなと実感した。
そして、「動物」たちは元に戻ることが出来、最後のイス取りゲームとなる。毎回必ず勝ち残っていた動物役のKちゃん。今回は早くに負けてしまい、自分が座ろうと思ったイスに先に座ったMUちゃんの頭をパシッ! とたたく。よほど悔しかったのであろう・・・。最後は二人が残る。
「魔女」のMAちゃん。「動物」のMUちゃん。二人とも今まで勝ち残ることは無かった。最後に座った方の役が「フルーツ島」を手に入れられることになる。音楽が止まり、2人がイスに座った。保育士としては「魔女」の方が早く座ったと思ったが、「魔女」対「動物」で、「MAちゃんが先だった!」「MUちゃんが先だった!!」「MAちゃんが押したからだ!!」ともめ出した。
判定しなければならない「謎の鳥」たちも動物の味方だけに、魔女の勝ちと言い切れず、またハッキリとわからないこともあり、判定しきれない。舞台上では普段の保育室のようにそれぞれが言い合っている。魔女のMAちゃんも自分が先だったと泣き出した。どうまとめるかと保育士はしばらく見届ける。
判定する「謎の鳥」たち8人は、イス取りゲーム1回やるごとに2人ずつ交替で判定していくことに決まっていた。この時に判定役になっていなかったクラスのリーダー的存在G君は、皆に向かってではないが、「いまのはMAちゃんがさきだったよな。」と言っていた。舞台袖にいた(担任ではない)保育士が「大きな声で皆に言っていいよ。」と声をかけてくれたが、真面目なG君は今は自分の出番ではないと思ったのか、大きな声でアピールはしなかった。
その時判定役だったK君が、舞台下(客席側)にいた担任保育士に、「どうする?」と小さな声で聞いてきた。「お客さんに聞いてごらん。」と言うと、少しドキドキしたようだが、お客さんに向かって「まじょが かったと おもうひと、はくしゅしてください!」と拍手での判定を求めた。会場からは大きな拍手が来た。
結果「魔女」の勝ちとなり、フルーツ島は魔女のもの!ということでその日は終わった。MAちゃんは泣いたままの状態で幕が閉じた。この時に泣いていたMAちゃんの肩を抱き、最後まで「だいじょうぶだよ。」と励ましていたAちゃんの姿も印象的だった。
劇が終り、部屋に戻ると、MAちゃんはまだ泣いていた。保育士がしばらく抱っこをし、落ち着いた。ふと別の子を見ると、クラスのリーダーG君(謎の鳥)が泣いている。どうしたのか問うと、「おかあさんのまえで かてなかった・・・」。フルーツ島が動物のものになった場合は味方である謎の鳥も勝ったことになる。それが出来なかったのが悔しかったようである。
「そうだね、悔しかったね。でも、今日は負けちゃったけど、次はわからないよ。またやろうね。」と声をかける。周りにいたY君も「またやろうな。」と声をかけていた。
クラス全体には「面白かったね~! 先生もドキドキしちゃったよ~!!」と楽しさを共感した。

この保育を終えて

ogawa_photo.jpg10月に運動会が終り、次は12月に行なわれる活動発表会に向けての取り組みが始まる。毎年、そのクラス、又は担当するグループの子たちの様子を見ながら、どんなことを楽しんでいるか、どんなことが好きか等、それをどうやって発表会に組み入れようかと具体的に検討する時期である。
私はこれまで年少児(3歳児クラス)と年中児(4歳児クラス)での活動が多かった。年長児(5歳児クラス)での発表会は初めてであった。
今までは、保育士の思い描いたストーリーを基盤に置きながらの導入がほとんどであった。こちらの思いが無ければ子どもたちを導いていくことは難しい。思いを持ちながら、子どもたちのやり取りの中で臨機応変に組み立て直していっていた。当たり前の話だが、年齢に応じて、適切だと思われるもので組み立てた。
それが今回、“年長児はどこまで出来るんだろう?”“何を求めてくるんだろう?”と私の中でしっかり見えて来ないところがあった。“無理に考えなくてもいいや。年長だから、1から子どもたちと作っていこう!”と思い、0からの導入をすることになった。

始めはどうなるかと思った。それまでに行なっていた“お話作り”の保育では一人一人とても楽しいお話を作っていた。それがクラスで1つのお話となると、自分の思いをアピール出来なかったり、逆にアピールし過ぎてまとまらなかったり・・・。
いくら年長児といってもそれぞれの頭の中で考えていることを、ひとつにまとめていくことは難しい。大人同士の話し合いだってそうなのだから、難しくて当たり前である。しかし、やりたい役が決まり、実際体を動かしていくようになると、子どもたちは変わった。その役になりきることで、ああしたい、こうしたい、という思いがどんどん沸いてきた。
それに、自分の思いだけでなく、他の役のことも考えるようになっていった。中には、話のつじつまが合わないと、「おかしいじゃん!」と訴えてくる子も見られた。結果によってストーリーを変えられる臨機応変さも、体験したからこそ納得しできたことであろう。
普段自分では言えないこと、出来ないことが、その役になりきることによって言えてしまったり、出来てしまったりする。恥ずかしがりやの子が大きな声で歌えたことで、いきなり皆に認めてもらえたりもする。言葉や頭の中だけでなく、実際に体験することで子どもたちの中から意欲が湧いていくのを実感することが出来た。
こちらが何かを与えてあげようなんて思わないほうがいいようである。ちょっとしたきっかけで子どもたちは自ら獲得しだす。0からのスタートはかえって良かったのかとも思う。5歳児だからこそ出来た活動だった。
共励保育園の活動発表会では、セリフを覚え“劇”を行なうのではなく、子どもたちが普段楽しんでいる様子が舞台上で行なえるような“劇あそび”を行なう。そのためには、保育士が考えた台本をしっかり覚えてもらうような、こちらから側からの一方的な保育では成功しない。子どもたちとの絶妙な駆け引きが必要になる。
こうして文として表現するのは簡単であるが、実際の所、なかなか上手くいかないことも多い。必ずと言っていい程壁にぶち当たる。
活動発表会という保育は、子どもたちにとってとても大切な経験であると思ってはいるが、正直、私はこの時期が好きではない。壁にぶち当たり、行き詰まり苦しい思いが多いからである。
しかし、反対に好きな時期でもある。子どもたちの素直な反応、意外な発想、そして何よりも1つのことを皆で作り上げた後の子どもたちは、お互い気持ちが通じ合い何かまとまりがでる。子どもも保育士も充実感がある。保育士はたとえ今回失敗に終わっても何かを得られる。私はそう思っている。

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