遊びながら遊ぶ “総合保育”
小学館「3・4・5歳児の保育」から

共励保育園(八王子市の実践)

ストーリー性のある「ごっこあそび」を通じて、言語や数、基礎技能を身につけていく「総合保育」を、長年にわたり研究・実践してきた東京・八王子市の共励保育園。「子どもにとって何が大切か」との視点で築き上げられてきたその保育の実際を紹介します。

保育士同士の研究活動から生まれた独自の「総合保育」

 保育士によって設定されたストーリー性のある「ごっこ遊び」に1年間を通じて取り組み、その遊びの中から数や言語、基礎技能、絵画、造形、感性などを身につけていく。それが共励保育園が実践する「総合保育」です。現在、東京八王子市内に第一〜第三までの保育園を擁する共励保育園には、保育士同士が自らの保育技能を高め、共に研鑽し合うための研究会があり、そこでの研究からこの「総合保育」も誕生しました。
 「スタートしたのは1988年頃。当初は3か月ごと、あるいは季節ごとにごっこ遊びのテーマを決めて単発的に行うという形だったのですが、現在は4月に1年間のテーマと物語を決め、そこにさまざまな出来事を仕組みながら、各年齢の発達に応じた学びを提供していくという形で展開しています。ただ《遊ぶ》ではなく、ただ《学ぶ》でもない、《遊びながら学ぶ》というところが、保育の最大の特徴です」
 こう語るのは、共励保育園の長田安司理事長。総合保育のテーマとしては、これまで「手紙」
「星」「ラジオ」など、実にさまざまなモチーフが使われてきましたが、大切なのは、表向きのごっこ遊びの楽しさは当然のことながら、そこで子どもたちに何を学んでもらうかを、しっかり認識しておくことだと長田理事長は語ります。
 「そのためには、保育士が各年齢の発達段階を正しく理解している必要があります。自分を中心とした世界をつくり、徐々にその周りの世界にも目を向け始める3歳児。外の世界が見え始め、世の中のさまざまな決まりを受け入れるようになる4歳児。そして、言葉や身体が飛躍的に発達し、よりダイナミックな人間関係や自己表現力を身につけ、価値観まで獲得し始める5歳児。このような各発達段階に適した教育的要素を、いかに自然に遊びの中に仕組んでいくことができるか、そこにこそ保育士の技術が問われるわけです。『楽しかったね。でも何を学んでの?』で終わらないよう、常にその活動の意味を考え、評価する。そのような姿勢が総合保育には欠かせません」 ▶ 各年齢の発達と保育

 実際の活動においては、経験豊富なベテラン保育士と若手保育士が数人でチームを組み、年度の初めにごっこ遊びのテーマや年間の活動内容を設定、それを4月と9月の2回行われる研究会で他の保育士にもプレゼンし、意見やアドバイスを取り入れながら内容を高めていきます。また、過去の実践が150テーマほど蓄積されているため、それらを参考にしたり、多少の修正を加えながら再度取り組んでみることもあるとか。ベテランによる指導と過去の事例をもとに、若い保育士たちも総合保育の意義と実践を学び、成長していくのです。
「もちろん、すべてが保育士の立てた計画どおりに進むとは限りません。でも、それでいいのです。子どもたちの現実を見ながら、子どもたち自身がやりたいこと、挑戦したいことに向けて支援してあげるのが保育士の役割。活動が強制的なものであってはなりません。以前、4歳児が『れたぁ』という手紙を題材にした総合保育に取り組んだのですが、そのときは最初は自分の好きな絵を描いて、それをお友達や園長先生に届ける、といった『郵便屋さんごっこ』的な活動だったのが、子どもたち自身の意欲と関心の高まりから、手紙を使ったコミュニケーション活動へと広がっていったことがあります。家族との手紙のやりとり、外国にいるおじいちゃん、おばあちゃんとの手紙のやりとり、お正月の年賀状のやりとり…。保育士自身が想定していなかったほどの深みのある活動にまで発展していくことがあるのも、この総合保育の醍醐味かもしれませんね。」

共励第二保育園・3歳児「総合保育」『くのいち忍者お宮ちゃん』

 お散歩の途中、巻物を見つけ園児たち。その巻物には、「4つの巻物を探せ」と書いてあり、親子遠足の際に、みんなで探してみることに。地図を頼りに巻物を見つけた園児たちの前に「黒猫城」の忍者学校からやってきた「お宮ちゃん」が登場。お宮ちゃんによると、黒猫城の「あんず城」が、「いのしし城」の「いのしし忍者」にさらわれてしまったとのこと。「みんなも“ちびっこ忍者”になって、私に力を貸してくれる?」というお宮ちゃんの願いを叶えるため、園児たちの修行が始まります。

「くのいち忍者お宮ちゃん」活動内容

ごっこあそび

まねっこあそび(しのび足の術など)/やってみようの巻(生活習慣)/親子遠足(くのいち忍者参上)/保育参観(いのしし忍者をやっつける・・・3つ数える)/運動会(ちびっこ忍者、力試しの巻)/保育参加(いのしし城にしのびこめの巻[ごっこあそび]/保育展(修行道場)/お別れ遠足(ちびっこ忍者誕生)

言語

呪文を言う(「ににんがにんにんにんじゃでにん○○の術!」)/合い言葉(「ねこといったら」「にゃー!」)/言葉あそび(「あの山こえて」の本を読み覚える)/歌ってあそぼうの巻(むっくり熊さん、ひらいたひらいた)

かぞえようの巻(唱える・数える・多さ・合成分解あそび)/交替模様(2種交替)

自然

野菜の巻(さつまいも・ジャンボかぼちゃ栽培)/お料理の巻(忍者の心得・おにぎり作り・月見だんご作り・ブロッコリー変身)

基礎技能

ちょきちょき・ぺたぺたの巻(はさみ使い・のり使いなど)/かきかきの巻(クレヨンの線あそび・絵かきうた・絵の具)/こねこねの巻(粘土あそび)/もりもりの巻(リズム体操・プレイタウン・鉄棒・一本橋・あみくぐりなどの体力づくり)/すいすいの巻(プールあそび)

自分づくり

ごっこ遊びを通して(なりきる楽しさ・自分を表現する・友達と関わる楽しさ・がんばろうという意識)/伝承あそび(集団であそぶ楽しさ・言葉のやりとりの楽しさ・がんばろうという意識)/基礎技能の積み重ね・生活習慣の自立など(できる喜び・つかうことの喜び)

親子の関わり

お宮ちゃんグッズ(お母さんが作ってくれたキンチャクベルト)/行事/くのいち通信(子どもの言葉に耳を傾ける・共通の話題で会話を楽しむ)/くのいち回覧板(読み聞かせできるよう、本を回覧でまわす)/ちびっこ忍者自慢(1年の成長を認める)

家庭とのつながり

くのいち通信(ちびっこ忍者のつぶやき・ただ今修行中)/お悩み相談(親同士が相談し合える場として)


* 上記のような活動を1年間保育計画に組み込んでいく。親子遠足や保育参観、運動会といった大きな行事にストーリーの重要ポイントを配置することで、親と子が主体的に遊びに参加し、その達成感や成長の喜びを共有できるよう配置がなされている。

活動のねらいは、子どもの「自分づくり」と同時に親子の関係性をも深めること

 共励第二保育園の3歳児が今年、取り組んでいる総合保育のテーマは、『くのいち忍者お宮ちゃん』というもの。保育士自らが扮する「お宮ちゃん」という忍者とともに、子どもたち自身も忍者になりきって遊び、その中で3歳児に必要な技能や友達とのかかわり、想像力などを身につけていくというのが、ねらいです。
 この活動を担当するのは、総合保育のスタート時から約18年にわたり実践を積み重ねてきた谷恵子先生を中心とする4名の保育士。実際の活動内容について、谷先生はこう語ります。

「『お宮ちゃん』は、忍者学校で修行中の見習い忍者という設定。彼女がさまざまな活動の仕掛け役となり、忍者の呪文で言葉遊びをしたり、『変身の術』でまねっこ遊びをしてみたりと、子どもたちを忍者遊びに誘っていきます。最終的には、いのしし城のいのしし忍者にさらわれた『あんず姫』を、お宮ちゃんとちびっ子忍者がいっしょになって助け出すというストーリー。その目標に向けて、子どもたちは1年間、言葉や数、基礎的な技能、運動能力などを高める活動に取り組んでいくわけです」
 子どもたちがより深く忍者遊びの世界に浸れるようにと、アイテムにもこだわります。折り紙で作った手裏剣を手に入れるための「きんちゃくベルト」や、頭にかぶる頭巾。これらは家庭にお願いして、親の手作りのものを使用します。
「子どもが保育園でどん遊びをしているのかを知り、家庭でもその話題が共有できるよう、行事やイベントに積極的に参加していただけるよう、親御さんに働きかけています。『作るのはちょっと大変だったけど、1年たってみると、作ってよかったと心から思います』との感想をいただくと、私たち保育士も『やってよかった』と感じますね」
 子どもにとっては、お母さんが作ってくれたもの(心の杖)を身につけて遊ぶという安心感。親にとっては、子どもが1年間、自分が作ったものに愛着をもって遊んでくれるという喜び。そのような親子のかかわりを深めていくのも、この総合保育の重要な課題なのです。

 「長年、この総合保育に携わってきましたが、今でも子どもたちから学ぶことは多いですね。自分が考えた遊びに、子どもたちが目を輝かせながら夢中になる。そんな姿からまた新しいアイデアや発想が生まれてくることがありますし、保育士自身が楽しませてもらっていると感じることがたくさんあります。保育士が楽しめれば、保育はこれだけ発展できるのだという実感を、日々、感じています」

学年主任:谷先生もも組担任:加藤木先生さくら組担任:笹井先生


「保育園の真の役割とは、何か?」を見つめ直し、実践しながら保育の質を高めていく

 共励保育園におけるこのような保育活動の根底に流れているのは、「保育園の真の役割とは何か?」を常に見つめ直し、実践しようとする姿勢だと長田理事長は言います。そして、その姿勢を端的に表現するならば、「子どもを育てるのと同時に、親を親として育てる」ということだと。
「0歳児・1歳児保育や長時間保育など、現在の保育には親の利便性を考慮した《サービス》が求められています。しかし、保育園がそういったサービスを追求すればするほど、親子がいっしょに過ごす時間、子どもが母親の膝の上で思う存分甘えられる時間が少なくなってしまいます。その結果どうなるのか。子どもは3〜5歳、あるいは小学生になっても心の拠りどころが得られず、気持ちが揺らいでしまう。と同時に、親もまた子どもの成長を通して幸せや喜びを感じるという、《親としての成長》を果たせなくなっていくのです。保育園は、けっして家庭の代わりは果たせません。親と保育園が車の両輪としてお互いに機能し合ってこそ、子どもの健全な発達が保障されるのだと、私たちは考えています」
共励保育園では、入園児に保護者に対して「行事にはちゃんと来てくれること」「子どもに何らかのシグナルが見えたときは、保育園任せにせず、一人で抱え込むこともせず、保育士と協力し合って対応してほしい」ということをお願いしているといいます。そして、保育参観などの行事では、原則ビデオ撮影禁止。そこには、「自分の子どもだけをカメラで追うのではなく、仲間と協力し、競い合いながら成長している《集団の中のわが子》を自分の目で見てほしい」との思いが込められています。
 「そして、大事なのは、保護者の声に耳を傾けること。行事があるごとに保護者にアンケートを取るのですが、いろいろなご意見をいただきます。保育に関心のなかったお父さんが、子どもの劇を見て『感動した!』と親バカたっぷりの意見をくれる。そんなアンケートが嬉しい。親バカがすばらしいんです。無関心がいちばん怖い。子どもが自分にとってかけがえのない存在であり、子どもの成長が自分の喜びてあるということに親が気づくよう支援する。それが保育園の重要な役割なんです」そして、このような親の意識の高まりは、保育園への親の参加、と同時に保育内容を厳しく評価しようという姿勢にもつながっていきます。
「そういう関係性を築くことが理想ですね。お互いに《預けっぱなし》《預かりっぱなし》ではなく、保育園は親に親の役割を求め、親は園の保育をしっかり評価する。そのような協力関係により、何よりも《子どものために》、より質の高い保育環境を提供していきたいと思っています」

子どもの発達から見た親の役割・保育園の役割

共励保育園「総合保育」過去の実践より
共励保育園でこれまでに実践されたテーマは150以上。第一〜第三の各年齢ごとに、毎年15テーマほどの実践が行われ、蓄積されていきます。2002年度には、総合保育「こちらなぞなぞ探偵事務所」の実践で、(財)ソニー教育財団のソニー幼児教育支援プログラム優良プロジェクト賞を受賞。

『ぞうぐみスター誕生!!』
(1998年・5歳児)
「みなさんは、スターの意味を知っていますか?」。ある日届いた“スター研究所”からの手紙。そこには、「★夜空に輝く星  子どもたちの努力や思いやりで美しく輝く心の星」と書かれていました。子どもたちは心の星を輝かせるために、サッカーの練習、ハーモニカの練習など、さのざまな挑戦をスタート。星の研究も行いました。銀河の夜バスツアー(お泊まり会)、みんなで考えた劇あそび(活動発表会)、1年間の成果を発表するためのスター研究所設立(保育展)
などの活動を通じて、子どもたちが日々輝きを増していく1年となりました。

れたぁ
(1999年度・4歳児)
 風の子“ふう”は、手紙を通していろいろな出来事やクイズを届けてくれます。最初はその手紙を心待ちにしていた子どもたちは、やがて「誰かに手紙を送りたい」という気持ちを芽生えさせ、絵手紙やスタンプ文字を使った手紙を友達や園長先生に届けるように。その活動は園全体から、やがては園の外にまで広がり、本物の郵便を使っての子ども同士でのやりとりや、遠方のおじいちゃん・おばあちゃんとの交流も生まれました。文字の力をどんどん伸ばすのと同時に、あたたかな心も行き交う1年間の活動となりました。

『はなまるラジオ』
(2001年度・5歳児)
「よい子のみんな、はなまるラジオの時間だよ!」。園長先生が持ってきてくれたラジオからは、子どもたちのための楽しいラジオ番組が流れてきます。ラジオ講座でいろいろなことを学んだり、身近なニュースを聞いたり、ちびっ子DJに挑戦したり・・・。誕生日に流れる、お母さんからのメッセージには、嬉しさから涙を流す子もいました。オリジナルのラジオ番組を作るというチャレンジが予想を超える楽しさを生み出し、同時に「人の話をしっかり聞く」という姿勢を身につけることができた活動です。